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■桜井俊氏 元総務事務次官/川内美彦氏 東洋大非常勤講師
毎日新聞社のバリアーゼロ社会実現キャンペーン「ともに2020」などに提言してもらう「毎日ユニバーサル委員会」の第6回座談会が4日、東京都千代田区のパレスサイドビルで開かれた。今回のテーマは「ソフト面から考える共生社会」。今夏の東京オリンピック・パラリンピックを機にハード面でのバリアフリー化は進むが、ソフト面はどうか。現状や課題について委員たちが意見を交わした。スポーツ庁長官の鈴木大地委員は欠席し、藤江陽子同庁審議官が代理出席した。【司会は小松浩・毎日新聞主筆、写真は根岸基弘】
◆川内氏 障害者への対応、硬直化/桜井氏 メディアで支援学ぶ機会を
防げぬホーム転落
小松主筆 ホームからの転落事故が後を絶ちません。声かけがあれば防げたという声もあります。ソフト面の現状について、車いすを使われている経験も踏まえ川内委員からまず考えをお聞かせください。
川内美彦委員 ホームドアの設置が急速に増えています。これは東京オリンピック・パラリンピックの影響もありますが、メディアの影響も非常に大きい。2018年にバリアフリー法が改正され、駅利用者が障害者・高齢者等へ声かけすることが努力義務になりました。声かけを促すアナウンスは非常に増えましたが、弱視で白杖(はくじょう)を使っていない人は外見上分からないから気づかれない。駅によっては「視覚障害者に声かけを」とアナウンスしていますが、逆に不愉快に感じたという当事者の声もあります。ホームの端を歩いている時などはちゅうちょなく声をかけるべきですが、何でもない場所を歩いている時に声をかけられたら「自分で安全確保しているのに」と思われてしまう可能性もあります。私が視覚障害のある人に聞いてみると8~9割は「声をかけてほしい」と言うが、そうじゃない人もいる。声かけというのは非常に難しい。
似たような話ですが、車いす使用者がエレベーターを乗り降りする際に「開」ボタンを押し続けて車いすの人を先に降ろそうとする人がいますが、車いす使用者にとっては、「開」ボタンは押さずに先に降りてもらった方が動きやすい場合も多い。障害のある人を優先することについての理解が形式的で、その場その場において最も適切な行動は何かを柔軟に考えることがうまくできていない気がします。
河合純一委員 私はホームで声をかけてもらうと単純にありがたいです。声をかけられる回数は飛躍的に増えてきました。肩や肘を触らせるなど誘導スキルも上がってきたと感じます。オリンピック・パラリンピックが近づいてきたことで、ホームドア設置のキャンペーン報道があったり、関連する法律が変わったり、とより良い社会をつくる基盤が動いています。一方で、外見から見えない障害に対し、駅利用者が気づけるようになるには相当ハードルが高い。障害者の人がサポートを断る場合もありますが、障害者がその伝え方を考えることも必要だと思います。
小松主筆 ANAグループではどのように社員教育をしていますか。
河本宏子委員 サービスの現場に立つ空港職員や客室乗務員等は、障害者への接遇を以前から学んでいましたが、18年からは全グループの社員を対象に研修を行っています。お客様一人一人に寄り添い何を望まれているのかを聞き出していく力は、机上の教育だけでは培われません。飛行機を利用される障害のあるお客様が多くなるとともに接点も増え、現場での学びや気づきの機会も増えました。相互作用で社会全体が良くなると思います。ANAグループでは、障害のある社員も研修に参加します。障害者や高齢者の施設に出向いて交流するセミナーも行っています。このような場でさまざまな意見が出て、知覚障害や認知症など見た目だけでは分からない方の困難さなども学びます。研修を何度も繰り返すことが大事だと感じています。
小松主筆 共生社会に向けた情報発信の在り方はどうあるべきか、総務事務次官を務め、電通で副社長を務める桜井さんにご意見をうかがいたいと思います。
桜井俊委員 ホームドアのようなインフラ整備は引き続き進めるべきでしょう。公的サービスなので、鉄道事業者に加えて公的支援も必要です。施設面での安全対策の徹底が一番大事ですから。ソフト面の対策も当然重要です。声かけをちゅうちょするような風土は解消しないといけない。個人的には、アナウンスやポスター、デジタル画面での啓発動画など駅での情報発信は非常に有効だと思います。その上で、例えば視覚障害者の手を引っ張ってはいけないというような支援のノウハウは動画投稿サイトで流すなど、パーソナルなメディアで学ぶ機会を提供してはどうでしょう。メディアの特性を踏まえ、何を伝えるかという目的によってメディアを使い分ける必要もあるのではないでしょうか。
行政の視点は
小松主筆 行政の視点からソフト面での共生社会をどう目指しますか。
藤江陽子委員 パラリンピックを契機として、多くの学校でオリパラ教育が始まっています。河合委員のようなパラリンピアンから話を聞いたり、一緒にスポーツをしたり、車いすの利用や手話、アイマスクを体験したりする機会も増えています。これはすごく大きな意味を持ちます。体験によって共感・理解し、行動に移していく、という道筋ができます。個々の状況に応じて判断するというところには一足飛びにはいきませんが、体験や理解を繰り返すことで、それぞれの状況の違いに気づくこともできます。オリパラ教育等の機会をいかに継続に結びつけられるかが大事です。
河本委員 民間企業もパラリンピックに向けさまざまな取り組みを進めています。例えばANAグループでは、日本ブラインドサッカー協会と一緒にコミュニケーション教育を行ったり、社内で職場対抗のボッチャ大会を開いたりしています。ANAグループ所属のパラリンピアンの応援にも行きます。企業がそれぞれの立場でできることをやっていくことで、輪が広がっていくと思います。
河合委員 スポーツには(人と人の間にある)敷居を下げる効果があります。一緒にできる、共感できる、そういうツールになるのです。それを最大限に生かしてほしい。「パラリンピックムーブメント」というものがあります。社会をより良くしたいと思って行動する人はすべてムーブメントの実践者です。
国際パラリンピック委員会は、誰もが暮らしやすい共生社会の実現を目指すというビジョンを掲げています。パラリンピックは、超人的なパフォーマンスをする選手が世界一を決める祭典と思われがちですが、メディアが世界に発信し、観客がSNS(ネット交流サービス)で発信してくれることで社会が大きく変わる原動力になると思います。今まで気づかれていなかった問題を意識レベルに引き上げ、それを見つめることで20年以降もより良い社会をつくることにつながります。誰かがつくってくれるんだ、ではなく、自分もその一員なんだ、と考えて小さな一歩を踏み出すこと。その連続でしか活力ある社会にならないと思います。
障害者のイベントは世界中にありますが、二百数十万人がチケットを買い、四十数億人が見てくれるコンテンツを他に知りません。だからこそ、本当にうまく活用してほしいと思っています。ちなみに、障害平等研修(DET)を受けたことがある人はどれぐらいいるでしょうか。私は、この研修は障害を理解して自分の態度を変えるには良い研修だと思っています。
藤江委員 大人のための研修機会は、子ども向けのオリパラ教育に比べると少ないかなと思いますね。
川内委員 子ども向けには「I′m POSSIBLE」という教材があります。パラリンピックを通してバリアフリーや公平について考える小中高校生向けの内容です。すごく丁寧に作られています。
障害の発想転換した 社会部・斎藤文太郎記者
東京オリンピック・パラリンピックのボランティア研修に取り入れられている「障害平等研修(DET)」を取材し、私も研修に参加した。障害は個人に由来するものではなく、その人を取り巻く社会の中にある、という発想の転換を促された。参加者からは「発想が変わった」という声が聞かれた一方、「自分が何かやらなきゃいけないのか」と迫られている気がすると受け止める人もいた。大会後も続けてほしい。何が障害となるのか多数派の中にいると気づくのは難しい。少数派の当事者の方と考える時間を持ちたい。
差別を可視化したいくらし 医療部・上東麻子記者
障害者施設への反対運動の全国調査をしたところ、住民の反対で施設が建設できなかったり予定地を変更したりしたケースが少なくとも68件あった。自治体が上手に介入すると円滑に解決することがあるが、多くの自治体は介入に及び腰だ。私は旧優生保護法の取材班にも加わったが、相模原市の障害者施設殺傷事件の根本には、障害者を不良な子孫と決めつけた旧優生保護法が影響していると感じる。人権意識が前進した現代でも差別意識や優生思想が残る。それを可視化する報道をしていきたい。
■人物略歴
桜井俊(さくらい・しゅん)氏
東京大卒。1977年郵政省(現総務省)入省。2016年退官。三井住友信託銀行顧問などを経て、20年1月から電通グループ副社長。66歳。
■人物略歴
川内美彦(かわうち・よしひこ)氏
横浜国立大大学院修了。工学博士、1級建築士。工業高専在学中にスポーツ事故がもとで車いす生活に。66歳。
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